新型コロナウイルス感染症関連情報
正しい情報で命を守る -いまわかっていること_2020年6月1日現在-
正しい情報で命を守る -いまわかっていること_2020年6月1日現在-
山梨大学医学部社会医学講座教授 山縣然太朗
人類史上、根絶に成功した病原菌は天然痘だけです。インフルエンザはワクチンと治療薬がありますが、わが国では2018-2019年シーズンには1200万人が罹患し、約3400人の超過死亡※1が観察されました。人類はウイルスと共生しているのです。
新型コロナウイルス感染症が今年に入って顕在化して以来、約5か月で1800編の論文が出版されています。明らかになったことと私の解釈は以下の通りです。
①新型コロナウイルスは感染力が強いが、感染しても無症状か軽症が多い。宿主を殺さず増殖する賢いウイルスで、変異により毒性が異なる可能性がある。
②わが国の抗体陽性(感染したために抗体ができている)率※2は0.4%から0.6%との厚労省の報告から感染者は累積で63万人と推計され、報告数の35倍である。
③重症化は急激におき、人工呼吸器などの高度な医療が必要となるために医療体制が生死を分ける。この医療体制整備の時間稼ぎのために緊急事態宣言を行った。
④高齢や生活習慣病、喫煙が重症化の危険因子である。若者や小児はほとんど重症化しないが理由は不明。
⑤国によって重症化率、致死率が異なり、アジア諸国は死亡者が少ない。その要因として、衛生習慣や社会的距離などの文化的背景や経済格差、医療体制、ウイルスの毒性の違い、BCGによる細胞性免疫効果などがあげられているが、科学的な証明は不十分。
⑥PCR検査の感度(感染者が正しく陽性となる割合)は70%であり、感染者が検査で陰性となる偽陰性が30%である。一方、特異度(非感染者が陰性となる割合)は99.9%であり、非感染者が陽性となる偽陽性は0.1%である。全国民がPCR検査を実施すると、63万人と推計される感染者の内、18.9万人がPCR陰性(偽陰性)となり、無症状なら非感染者として市中で生活する。一方で、偽陽性となる12.5万人が非感染者なのに隔離される。
⑦ワクチンや治療薬開発は世界中で急速に進んでいるが実用化には1年以上かかる見通し。
⑧重症患者受け入れ医療機関の整備・対策費と診療所の患者減少による膨大な赤字が生じるという2種類の医療崩壊が起きつつある。
⑨「ステイホーム」という隔離政策は感染拡大防止に大きな効果があるが、老若男女を問わず心の健康を害し、肥満や運動不足、家庭内暴力、虐待のリスクを高めている。
⑩経済は大打撃を受けた。一方で、テレワークやWeb会議などが急速に普及した。
公衆衛生としては、集団免疫の状況、ウイルスの毒性変化が第2波、第3波の流行被害に大きな影響を与えるために、その情報が必要です。
※1 超過死亡:感染症が流行していなかったと想定したときの死亡者数を推定し、実際の死亡者数と比較することで感染症による死亡者数を推定したもの。
※2 抗体陽性率:抗体は免疫グロブリンというタンパク質で、異物が体内に入るとその異物にある抗原と特異的に結合する抗体を作り、異物を排除するように働く。過去に新型コロナウイルスに感染し、抗体が作られている割合が抗体陽性率で、無症状の感染者も含む市中感染率を把握できる。厚労省は4月下旬から東京都と東北地方の献血血液中の新型コロナウイルス抗体の有無を調査した。検査の精度が不明のため、6月以降再調査する方針。